灘区・六甲の山の上のマンション、なぜ500万円台なのか?ファミリー向けの部屋です

神戸市灘区鶴甲。阪急六甲から市バスで山を登った先にある町です。この町で直近1年に成約したマンションは38件。その中央値は495万円でした。専有面積の中央値は60㎡、間取りは2LDKと3LDKが中心です。ワンルームではありません。家族が住む広さの住まいが、500万円前後で持ち主を変えています。
同じ鶴甲で、戸建の成約中央値は4,100万円。マンションと戸建で、値段が8倍以上ひらいています。同じ町名、同じバス停の圏内で、です。
この記事では、国土交通省 不動産情報ライブラリの取引価格情報・成約価格情報から鶴甲の43件を自社で集計し、この数字が何を意味しているのか、そして鶴甲に不動産を持っている方が売るときに何を判断材料にすべきかを整理します。
鶴甲のマンションは、いくらで売れているのですか?
結論:2025年4月〜2026年3月に成約・取引された38件の中央値は495万円、㎡単価の中央値は92,121円です。38件のうち33件(86.8%)が800万円以下で成約しています。

まず数字の性質を確認しておきます。この43件のうち29件は「成約価格情報」、14件は「不動産取引価格情報」です。前者は指定流通機構(レインズ)に登録された実際の成約価格、後者は取引当事者へのアンケートに基づく情報で、いずれも国土交通省が公表しているものです。売出価格や査定価格ではなく、実際に取引が成立した価格である点が、ポータルサイトに並ぶ広告価格との決定的な違いです。
価格帯別に並べ直すと、鶴甲というマンション市場の形がはっきり見えます。

500万円以下が21件、501〜800万円が12件。この2つで33件を占めます。2,000万円を超えたのは2件だけです。灘区全体のマンション市場と比べると、これは相当に特異な分布です。灘区の駅別の相場については灘区のマンションは駅でいくら変わるのか。六甲道と六甲、同じ区の別の市場で整理していますが、そこで扱った六甲道・六甲の駅前相場と、同じ「六甲駅最寄り」に分類される鶴甲とでは、まったく違う数字が出ます。鶴甲の42件は最寄駅が「六甲」と記録されていますが、実際にはバスで山を登った先にあります。
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なぜ、これほど安い数字が並ぶのですか?
結論:38件のうち28件が1981年以前の建物だからです。この28件だけを取り出すと中央値は440万円、㎡単価は79,016円まで下がります。

ここは慎重に読む必要があります。1991年以降の帯はいずれも1〜2件しかなく、中央値といっても実質的にはその1〜2件の実額そのものです。「築浅なら3,700万円で売れる」と読むのは誤りです。この表から確実に言えるのは一点だけ、鶴甲のマンション市場は1981年以前の28件が中心であるということです。
1981年以前という区切りには意味があります。建築基準法の耐震基準が改正され、いわゆる新耐震基準が適用されるのは1981年6月1日以降に確認申請を受けた建物です。鶴甲の中心を占める28件は、その前の基準で建てられた建物ということになります。住宅ローンの審査、住宅ローン控除の適用、リフォーム時の耐震補強の要否——買主側の条件が変わる分岐点が、まさにこの帯にあります。
もうひとつ。鶴甲のマンションの築年の中央値は1969年です。築57年前後の建物が市場の中心にある町、と言い換えられます。
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結論:総額はほぼ動いていません。㎡単価は上がって見えますが、その一部は「取引された住戸が狭くなった」ことによる見かけの上昇です。
4年前の同じ期間(2021年4月〜2022年3月)の鶴甲は、マンションの成約・取引が42件、中央値480万円、㎡単価の中央値78,322円、専有面積の中央値65㎡、築年の中央値1969年でした。直近1年は38件、495万円、92,121円、60㎡、築年1969年です。
| 項目 | 2021年4月〜2022年3月 | 2025年4月〜2026年3月 |
|---|---|---|
| マンションの件数 | 42件 | 38件 |
| 総額の中央値 | 480万円 | 495万円 |
| ㎡単価の中央値 | 78,322円 | 92,121円 |
| 専有面積の中央値 | 65㎡ | 60㎡ |
| 築年の中央値 | 1969年 | 1969年 |
総額は480万円から495万円へ、率にして3.1%の変化です。一方で㎡単価は78,322円から92,121円へ17.6%上がっています。この差はどこから来たのか。専有面積の中央値が65㎡から60㎡へ縮んでいることが効いています。同じ団地内でも、狭い住戸ほど㎡単価は高く出ます。総額が動かないまま取引される住戸が小さくなれば、㎡単価は自動的に上がります。
つまり「鶴甲は4年で17.6%値上がりした」と書くのは、少なくともこのデータからは正確ではありません。総額でみれば横ばいというのが、鶴甲について言える範囲の事実です。神戸市全体では件数が増えて価格は横ばい、という形が続いていますが、鶴甲は件数もやや減っています。
鶴甲という町は、どうやってできたのですか?
結論:1967年に神戸市住宅供給公社が着工し、翌1968年に一斉入居が始まった、約40ha・約2,118戸の計画的な団地です。

神戸市が設立した公社の後継法人である一般財団法人神戸住環境整備公社の沿革によれば、鶴甲団地の建設着工は昭和42年(1967年)。翌昭和43年(1968年)に一斉入居が始まりました。規模は約40ha、約2,118戸。内訳は戸建295戸、分譲共同住宅48棟1,736戸(うち公社分譲は35棟1,242戸)、賃貸共同住宅7棟87戸です。戸数の8割以上が共同住宅という構成が、いまの成約データ(マンション38件に対し戸建5件)にそのまま表れています。
神戸市の「六甲山森林整備戦略」も、1960年から1975年にかけての市街化の変遷として「鶴甲、渦森、鈴蘭台に代表される大規模な住宅地が六甲山北側および南側で開発された」と記しています。戦後の人口急増を受けた住宅供給が、六甲の斜面を登っていった時代の産物です。
削った土はどこへ行ったのか。神戸市灘区の公式サイト「灘百選」は、摩耶埠頭について「昭和34年(1959年)に着工し、約8年の歳月をかけて昭和42年(1967年)に完成。現在の鶴甲からベルトコンベアとダンプカーで運んだ土砂で埋め立てられました」と説明しています。山を削って住宅地をつくり、その土で海を埋めて港をつくる。神戸の戦後開発の縮図が、鶴甲という地名の下にあります。
なお、神戸市の資料で「山、海へ行く」と呼ばれているのはポートアイランド建設時の合言葉で、公表資料上、鶴甲の土砂の行き先として明記されているのは摩耶埠頭です。この点は混同されやすいので、当社では確認できた範囲で記載しています。灘区の成り立ち全体については灘区の歴史をたどる――酒蔵と山と海が作った街もあわせてご覧ください。
町内には神戸大学の鶴甲第1キャンパス(鶴甲1丁目)と鶴甲第2キャンパス(鶴甲3丁目)があります。現在は国際人間科学部が使用しており、同学部は2017年に国際文化学部と発達科学部を再編統合して設置されたものです。公共交通は神戸市バス36系統(阪神御影〜鶴甲団地、阪急六甲経由)。「鶴甲団地」停留所に停まるのは、この36系統のみです。
誰が、鶴甲のマンションを買っているのですか?
結論:間取りは2LDKが14件、3LDKが11件、3DKが8件。ワンルームは0件です。学生向けの狭い部屋ではなく、家族向けの広さの住戸が動いています。
38件の間取りを数えると、2LDK 14件、3LDK 11件、3DK 8件、その他5件。1Rは0件、1LDKは1件でした。専有面積の中央値は60㎡です。町内に大学のキャンパスがあることから単身者向けの市場を想像しがちですが、成約データが示しているのはその逆で、ファミリー向けの間取りが数百万円台で取引されているという事実です。
この価格帯には、現金で買える買主が入ってきます。築年が1981年以前に集中しているため、住宅ローンの融資期間が短くなったり、金融機関によっては取り扱いが難しくなったりする物件が含まれます。裏を返せば、ローンに依存しない買主——投資目的、セカンドハウス、あるいは親族の近居——の比率が高くなりやすい価格帯だということです。ただし、買主の属性そのものは公表データに含まれていないため、ここは価格帯と築年から読み取れる範囲の推論であり、確認された事実ではありません。
鶴甲で売るとき、何に気をつければいいですか?
結論:価格が低いぶん、売却にかかる費用の比率が相対的に大きくなります。2024年7月の制度改正で、800万円以下の物件の媒介報酬の考え方が変わった点は必ず確認してください。
鶴甲のマンションは38件中33件が800万円以下です。この価格帯では、宅地建物取引業法上の媒介報酬の扱いが変わります。
令和6年(2024年)6月21日の国土交通省告示第949号により、報酬告示(昭和45年建設省告示第1552号)が改正され、令和6年7月1日から、価額800万円以下(消費税等相当額を含まない金額)の宅地・建物の売買または交換の媒介について、依頼者から受けられる報酬の上限が33万円(税込。税抜30万円)となりました。改正後の告示条文では報酬の相手方が「依頼者」と表記されており、国土交通省はパブリックコメントへの回答で、この特例の対象となる依頼者は売主・買主双方を指すと明示しています。
ただし注意点があります。この特例は「当該媒介に要する費用を勘案して」適用されるものであり、無条件に33万円を請求できる制度ではありません。また、媒介契約の締結に際して、あらかじめ報酬額について依頼者に説明し、合意しておくことが要件とされています。500万円の物件であれば、本則の速算式(400万円超は取引価額×3%+6万円+消費税)では21万円+消費税ですが、特例が適用される場合はそれを上回る金額になり得ます。媒介契約を結ぶ前に、報酬額がいくらになるのかを必ず書面で確認してください。
売らない方がよいケース
次のような場合は、いま売却を進めることが最善とは限りません。
- 賃貸に出せている、または出せる見込みがある場合。60㎡・2LDKクラスの住戸を500万円で手放すか、賃料収入を得続けるかは、利回りの計算をしてから決めるべき判断です。
- 建物の建替え・再生の話が管理組合で動いている場合。方向性が決まる前に売ると、結果を見ずに市場から降りることになります。まず管理組合の議事録と長期修繕計画を確認してください。
- 取得費が分からず、譲渡所得の計算ができていない場合。取得費が不明だと概算取得費(譲渡収入金額の5%)で計算せざるを得ず、税負担が想定より重くなることがあります。売却前に売買契約書を探してください。譲渡所得の考え方は灘区の不動産売却にかかる費用と税金で整理しています。
- 相続登記が済んでいない場合。登記名義が被相続人のままでは売却できません。2024年4月から相続登記は義務化されています。
逆に、動いた方がよいケース
管理費・修繕積立金の滞納が積み上がっている、遠方に住んでいて管理に関われない、空室のまま固定資産税と管理費だけが出ていく——こうした状態が続いているなら、保有コストの累計が売却価格に近づいていく前に判断する意味があります。鶴甲の場合、年間で見れば38件が実際に取引されており、買主がいない市場ではありません。
よくある質問
鶴甲のマンションの相場はいくらですか?
結論:2025年4月〜2026年3月の成約・取引38件の中央値は495万円、㎡単価の中央値は92,121円です(出典:国土交通省 不動産情報ライブラリ)。ただし38件のうち28件が1981年以前の建物で、その帯だけの中央値は440万円です。建築年によって数字が大きく変わるため、ご自宅の相場を知るには個別の査定が必要です。
鶴甲の戸建はいくらで売れていますか?
結論:同じ期間の成約・取引は5件、中央値は4,100万円、面積の中央値は180㎡です。ただし件数が5件と少なく、中央値は振れやすい数字です。4年前の同期間は2件・3,400万円で、いずれも母数が小さいため、傾向として断定できる水準ではありません。
鶴甲のマンションは4年前より値上がりしていますか?
結論:総額でみればほぼ横ばいです。中央値は480万円(2021年4月〜2022年3月)から495万円(2025年4月〜2026年3月)へ3.1%の変化にとどまります。㎡単価は17.6%上がっていますが、取引された住戸の専有面積の中央値が65㎡から60㎡へ縮んでおり、その構成変化を含んだ数字です。
築50年を超えるマンションでも売れますか?
結論:鶴甲では直近1年に28件が1981年以前の建物として成約しています。売れないわけではありません。ただし住宅ローンの融資期間や取り扱い可否が金融機関によって変わるため、買主の資金調達方法が価格帯を左右します。管理状況と修繕履歴の資料を揃えておくことが、条件面で効いてきます。
800万円以下で売ると、仲介手数料はどうなりますか?
結論:令和6年7月1日施行の報酬告示の改正により、価額800万円以下(税抜)の宅地・建物の売買・交換の媒介では、依頼者から受けられる報酬の上限が33万円(税込・税抜30万円)とされました。ただし媒介に要する費用を勘案したうえで、媒介契約の締結に際してあらかじめ説明し合意することが要件です。自動的に33万円になるものではないため、契約前に書面で確認してください。
出典
- 自社集計データ:出典:国土交通省 不動産情報ライブラリ (https://www.reinfolib.mlit.go.jp/)。「不動産取引価格情報・成約価格情報」(国土交通省)をもとに株式会社Estate&Co.作成。対象は兵庫県神戸市灘区鶴甲、2025年第2四半期〜2026年第1四半期(2025年4月〜2026年3月)の43件、および比較対象として2021年第2四半期〜2022年第1四半期の46件。集計日:2026年8月25日。
- 鶴甲団地の沿革・規模:一般財団法人 神戸住環境整備公社「沿革」および「鶴甲団地における既存住宅流通促進による団地再生の取り組み」
- 六甲山麓の住宅地開発:神戸市「六甲山森林整備戦略」第1章
- 摩耶埠頭と鶴甲の土砂:神戸市灘区「灘百選(海・港)」
- 神戸大学 鶴甲キャンパス:神戸大学「六甲台地区アクセス」、神戸大学 国際人間科学部「アクセス」「沿革」
- 公共交通:神戸市交通局「36系統」「鶴甲団地バス停」
- 媒介報酬の特例:国土交通省「宅地建物取引業者が宅地又は建物の売買等に関して受けることができる報酬の額」(昭和45年建設省告示第1552号、最終改正 令和6年6月21日国土交通省告示第949号、令和6年7月1日施行)、国土交通省「空き家等に係る媒介報酬規制の見直し」、e-Gov パブリックコメント意見募集結果(令和6年6月21日)
- アイキャッチ写真:Tsurukabuto ES.jpg 写真:岩佐 栄三(CC0, Wikimedia Commons)
- 本文写真:Night View from Rokkodai Campus of Kobe University 1.JPG 写真:そらみみ(CC BY-SA 3.0, Wikimedia Commons)
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この記事の数字の出典について(2026年9月21日 追記)
この記事の件数・価格は、国土交通省「不動産情報ライブラリ」の成約価格情報(宅地建物取引業者が登録した成約)と不動産取引価格情報(取引当事者へのアンケートに基づく実取引価格)を合わせて集計したものです。本文で「成約」と表記している箇所も、この2種類を合わせた取引を指します。
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