震災が分けた、長田区の二つの市場。成約223件で見る1995年の境界線

神戸市長田区で不動産の売却を考えるとき、「長田区の相場」というひとつの数字を探しても、あまり役に立ちません。この区は、ほかのどの区より強く1995年1月17日という一点で市場が分かれているからです。
国土交通省の成約価格情報から、2025年4月〜2026年3月に神戸市長田区で成約した中古マンション103件・戸建120件を当社で集計しました。この記事では、その数字を築年・駅・面積で分解します。
長田区の不動産相場はいくらですか?
結論:中古マンションは㎡単価31.4万円・総額2,000万円、戸建は総額1,700万円が中央値です(2025年4月〜2026年3月の成約/国土交通省 不動産情報ライブラリより当社集計)。
ただしこの数字をそのままご自宅に当てはめると、かなりの確率でずれます。理由は次の章から順に説明します。
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株式会社Estate&Co.(不動産売却専門店)/宅地建物取引業免許 兵庫県知事(2)第12171号 会社概要
なぜ長田区は「1995年」で相場が割れているのですか?
結論:1981〜1995年築のマンションが㎡単価14.1万円なのに対し、1996〜2005年築は35.5万円と2.5倍の差があるためです。

長田区は阪神・淡路大震災で住家全壊15,521棟と神戸市9区で最も多い被害を受けました。さらに焼損は4,834棟で、全市7,386棟の約65%がこの区に集中しています(神戸市)。
その結果として何が起きたか。成約103件のうち58件(56%)が1996〜2005年築です。震災後の復興で一斉に建てられた建物群が、いまの長田区のマンション市場の主役になっています。面積も震災前の60㎡に対し70㎡と広く、総額中央値は555万円と2,550万円で約4.6倍ひらきます。
売主にとっての意味は明確です。ご自宅の建築年が1995年より前か後かで、属する市場そのものが変わります。「長田区のマンションは2,000万円くらい」という一般論は、震災前の建物をお持ちの方には高すぎ、震災後の建物をお持ちの方には安すぎる数字になります。
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結論:1980年以前の物件はマンション300万円・戸建410万円で、いずれも実質的に土地または再生前提の価格帯です。

戸建で目を引くのは2016年以降が27件で3,500万円という帯です。マンションが震災復興期に集中しているのに対し、戸建は近年の新築供給が価格帯の上限をつくっています。1980年以前の戸建25件・410万円との差は約8.5倍です。
ここで押さえておきたいのは、長田区の戸建は土地が狭いことです。成約120件の土地面積中央値は75㎡で、50㎡未満が20件ある一方、100㎡以上も41件あります。垂水区の戸建(土地中央値125㎡)と比べると6割の広さです。震災復興の区画整理を経た市街地では、限られた敷地に建てる住宅が標準になっています。
長田区のどの駅が高く、どの駅が安いのですか?
結論:中古マンションの㎡単価は新長田駅41.7万円が最も高く、神戸電鉄長田駅6.9万円が最も低い。約6倍の開きがあります。

取引が最も厚いのは新長田駅で35件(総額中央値2,900万円)、次いで西代駅18件(2,200万円)です。一方で北部の山手側は、丸山駅5件で500万円、神戸電鉄長田駅6件で440万円と、まったく別の水準になります。
戸建も同じ構造で、新長田駅16件2,800万円・板宿駅17件2,500万円に対し、丸山駅18件965万円・神戸電鉄長田駅8件360万円。南北で7.8倍の差です。
長田区は神戸市9区で最も面積が小さく(11.36km²)、北に高取山、南に海を抱えた南北に細長い区です。この地形が、そのまま価格の勾配になっています。
読み方の注意です。駅別の中央値は、その駅の格を示すものではありません。新長田駅圏が高いのは震災復興の再開発で建った新しい住戸が中心だからで、北部が低いのは築古住戸が中心だからです。件数の少ない駅ほど1件の影響が大きくなります。
長田区の不動産は、今売るべきですか?
結論:戸建の成約件数が4年で57件から120件へ2.1倍に増えています。価格は横ばいですが、買主の数は明確に増えました。

戸建は件数が110.5%増えた一方、総額中央値は1,700万円から1,700万円で変化していません。中古マンションは㎡単価が28.9万円から31.4万円へ8.7%上がったものの、総額中央値は2,100万円から2,000万円へわずかに下がりました。㎡単価が上がって総額が下がるということは、売れている住戸の面積が小さくなっているということです。
戸建の件数増には新築供給(2016年以降築27件)が含まれる点は差し引く必要があります。それでも市場の厚みが2倍になったことは、売却を考える側にとって追い風です。
長田区で実際に成約した事例を見せてください
マンション15件・戸建13件を、価格帯が偏らないよう抽出しました。
| 種別 | 地区名 | 最寄駅 | 成約価格 | 面積 | 築年 | 時期 |
|---|---|---|---|---|---|---|
| マンション | 丸山町 | 丸山(兵庫) 徒歩13分 | 100万円 | 55㎡(3DK) | 1986年築 | 2025年4〜6月 |
| マンション | 長田天神町 | 長田(神戸電鉄) 徒歩5分 | 350万円 | 70㎡(3LDK) | 1981年築 | 2025年7〜9月 |
| マンション | 大橋町 | 新長田 徒歩4分 | 520万円 | 25㎡(1K) | 1991年築 | 2025年10〜12月 |
| マンション | 高取山町 | 板宿 徒歩20分 | 650万円 | 70㎡(3LDK) | 1985年築 | 2026年1〜3月 |
| マンション | 林山町 | 長田(神戸市営) 徒歩17分 | 880万円 | 85㎡(3LDK) | 1984年築 | 2025年4〜6月 |
| マンション | 大谷町 | 西代 徒歩4分 | 1,300万円 | 50㎡(1LDK) | 1985年築 | 2025年4〜6月 |
| マンション | 大道通 | 西代 徒歩4分 | 1,600万円 | 65㎡(3LDK) | 2000年築 | 2025年7〜9月 |
| マンション | 大道通 | 西代 徒歩4分 | 1,900万円 | 65㎡(3LDK) | 2000年築 | 2025年4〜6月 |
| マンション | 山下町 | 西代 徒歩5分 | 2,200万円 | 55㎡(2LDK) | 1999年築 | 2025年7〜9月 |
| マンション | 松野通 | 新長田 徒歩2分 | 2,400万円 | 75㎡(2LDK+S) | 2007年築 | 2025年4〜6月 |
| マンション | 御屋敷通 | 西代 徒歩1分 | 2,700万円 | 75㎡(1K) | 1999年築 | 2025年4〜6月 |
| マンション | 御屋敷通 | 西代 徒歩1分 | 2,800万円 | 70㎡(3LDK) | 1999年築 | 2026年1〜3月 |
| マンション | 二葉町 | 新長田 徒歩10分 | 2,900万円 | 75㎡(3LDK) | 2002年築 | 2026年1〜3月 |
| マンション | 久保町 | 新長田 徒歩7分 | 3,400万円 | 70㎡(3LDK) | 2012年築 | 2026年1〜3月 |
| マンション | 若松町 | 新長田 徒歩1分 | 3,900万円 | 80㎡(2LDK) | 1998年築 | 2026年1〜3月 |
| 戸建 | 西山町 | 板宿(バス等) | 100万円 | 土地165㎡/延床85㎡ | 1982年築 | 2025年7〜9月 |
| 戸建 | 片山町 | 長田(神戸市営) 徒歩10分 | 250万円 | 土地45㎡/延床30㎡ | 年築 | 2025年10〜12月 |
| 戸建 | 大橋町 | 新長田 徒歩10分 | 350万円 | 土地40㎡/延床50㎡ | 1998年築 | 2026年1〜3月 |
| 戸建 | 雲雀ケ丘 | 鵯越 徒歩20分 | 530万円 | 土地265㎡/延床85㎡ | 1968年築 | 2026年1〜3月 |
| 戸建 | 本庄町 | 鷹取 徒歩10分 | 690万円 | 土地65㎡/延床70㎡ | 1985年築 | 2025年7〜9月 |
| 戸建 | 長尾町 | 板宿 徒歩20分 | 1,200万円 | 土地135㎡/延床140㎡ | 1970年築 | 2025年4〜6月 |
| 戸建 | 大谷町 | 西代 徒歩10分 | 1,500万円 | 土地120㎡/延床115㎡ | 1997年築 | 2025年7〜9月 |
| 戸建 | 久保町 | 新長田 徒歩10分 | 1,800万円 | 土地45㎡/延床60㎡ | 1996年築 | 2026年1〜3月 |
| 戸建 | 檜川町 | 丸山(兵庫) 徒歩10分 | 2,300万円 | 土地110㎡/延床95㎡ | 2014年築 | 2025年4〜6月 |
| 戸建 | 本庄町 | 鷹取 徒歩10分 | 2,700万円 | 土地95㎡/延床95㎡ | 2012年築 | 2025年4〜6月 |
| 戸建 | 若松町 | 新長田 徒歩10分 | 3,100万円 | 土地40㎡/延床90㎡ | 2021年築 | 2026年1〜3月 |
| 戸建 | 大谷町 | 西代 徒歩5分 | 3,500万円 | 土地135㎡/延床105㎡ | 1994年築 | 2026年1〜3月 |
| 戸建 | 五位ノ池町 | 板宿 徒歩10分 | 4,400万円 | 土地75㎡/延床125㎡ | 2025年築 | 2025年7〜9月 |
出典:国土交通省 不動産情報ライブラリ「成約価格情報」より当社抽出(神戸市長田区)。価格・面積は同ライブラリの公表単位に丸められています。当社の取扱物件ではありません。
長田区で高く売るために、何をすればいいですか?
結論:築年が1995年より前か後かで戦い方が変わります。具体的には次の4点です。
1. まず「震災前か震災後か」で自分の位置を決める
1996年以降築なら、㎡単価35.5万円の市場にいます。1995年以前なら14.1万円の市場です。区の平均である31.4万円は、後者の売主にとって2倍以上の期待値になってしまいます。最初にここを確定させないと、価格戦略が組めません。
2. 南北のどちら側かを明示する
新長田・西代・高速長田の駅圏と、丸山・神戸電鉄長田の駅圏は、同じ長田区でも6倍の水準差があります。買主層も違います。前者は再開発された市街地の利便性を買い、後者は総額の安さと戸建の可能性を買っています。どちらの買主に向けて売るのかを先に決めることが、広告文と価格の両方を決めます。
3. 狭小地の戸建は「建てられるか」を先に整理する
長田区の戸建は土地面積の中央値が75㎡、50㎡未満も20件あります。この規模になると買主が最初に確認するのは接道の状況、再建築の可否、間口、前面道路の幅員です。ここが不明なままだと、価格以前に検討から外れます。逆に整理して提示できれば、狭小でも成約している事実(現に120件動いています)を味方にできます。
4. 築古は「土地または再生前提」として見せる
1980年以前はマンション300万円・戸建410万円です。この帯では建物の状態を訴求しても価格は動きません。戸建なら解体費用の目安と再建築の条件、マンションなら管理状況と修繕積立金の残高を先に出すほうが、買主の判断が早くなります。
よくある質問
長田区の不動産売却の相場はいくらですか?
2025年4月〜2026年3月の成約で、中古マンションは㎡単価の中央値が31.4万円・総額の中央値が2,000万円、戸建は総額の中央値が1,700万円です。ただし長田区は築年による差が非常に大きく、マンションでは1981〜1995年築が㎡単価14.1万円、1996〜2005年築が35.5万円と2.5倍ひらきます。ご自宅の建築年を確認したうえで判断する必要があります(国土交通省 不動産情報ライブラリより当社集計)。
なぜ長田区は築年による価格差が大きいのですか?
阪神・淡路大震災の影響です。長田区は住家全壊15,521棟と神戸市9区で最も多く、焼損4,834棟は全市7,386棟の約65%を占めました(神戸市)。その後の復興で1996〜2005年に多くの住宅が建てられ、直近1年の中古マンション成約103件のうち58件(56%)がこの築年帯です。震災を境に建物のストックが入れ替わったことが、そのまま価格差になっています。
震災前に建った古いマンションでも売れますか?
売却できます。1981〜1995年築の中古マンションは直近1年で28件、1980年以前も3件が成約しています。中央値はそれぞれ555万円・300万円です。この価格帯では管理状況、修繕積立金の残高、大規模修繕の履歴が評価を左右します。資料を揃えたうえで現実的な価格帯をご提示します。
長田区の戸建は土地が狭いと聞きますが、売りにくいですか?
土地面積の中央値は75㎡で、50㎡未満の成約も20件あります。ただし直近1年で戸建は120件が成約しており、4年前の57件から2.1倍に増えています。売りにくいというより、買主が確認する項目が違います。接道の状況、再建築の可否、間口、前面道路の幅員を先に整理して提示できるかどうかが成約の速さを決めます。
新長田駅の近くと北部では、どれくらい価格が違いますか?
中古マンションの㎡単価中央値で、新長田駅41.7万円に対し神戸電鉄長田駅6.9万円と約6倍の差があります。戸建でも新長田駅16件2,800万円に対し神戸電鉄長田駅8件360万円で約7.8倍です。長田区は北に高取山、南に海を抱えた南北に細長い区で、この地形と震災復興の進み方の違いが価格の勾配になっています。
長田区は今が売り時ですか?
戸建は成約件数が4年で57件から120件へ110.5%増えた一方、総額の中央値は1,700万円のまま変わっていません。中古マンションは㎡単価が28.9万円から31.4万円へ8.7%上昇しましたが、総額中央値は2,100万円から2,000万円へやや低下しています。価格が大きく上がる局面ではありませんが、買主の数は明確に増えている市場です。
出典と、この記事の数字について
- 成約件数・価格・築年・面積・最寄駅:国土交通省「不動産情報ライブラリ」成約価格情報より当社集計(神戸市長田区/2025年4月〜2026年3月の中古マンション等103件・宅地(土地と建物)120件。比較対象は2021年4月〜2022年3月の98件・57件)。中古マンションは面積15㎡以上を対象
- 阪神・淡路大震災の被害:神戸市「阪神・淡路大震災被害の状況」(建物被害は1995年12月22日現在、火災は1996年2月1日現在)
- 長田区の面積・地形:神戸市長田区「区の概要」、神戸市統計書
※中央値は「その区分で実際に売れた物件の中央の値」であり、個別物件の査定額ではありません。※件数の少ない区分ほど1件あたりの影響が大きくなります。※価格・面積は不動産情報ライブラリの公表単位に丸められています。
私たちは神戸市中央区京町に事務所を置き、長田区を含む神戸市全9区で売却のご相談をお受けしています。長田区は、震災という一点で市場が分かれた特殊な区です。ご自宅がどちらの市場に属しているかを、実際の成約データでお示しするところから始めさせてください。
この記事の数字の出典について(2026年9月21日 追記)
この記事の件数・価格は、国土交通省「不動産情報ライブラリ」の成約価格情報(宅地建物取引業者が登録した成約)と不動産取引価格情報(取引当事者へのアンケートに基づく実取引価格)を合わせて集計したものです。本文で「成約」と表記している箇所も、この2種類を合わせた取引を指します。土地の形状・間口は成約価格情報には記録がないため、これらを扱った集計は不動産取引価格情報に基づきます。
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